ララフェルとパイッサ

のんびり気ままに創作小説やら日記やらをあげていくブログ

【創作小説】第1世界とリテイナーちゃん

 

 

冒険者さんはこのまままた第一世界に戻るのでっすか?」
第一世界や賢人たちの状況をひと通り報告し、 原初世界の動向もあらまし教えてもらった後、 ふとタタルさんがそんなことを聞いてきた。
「う・・・ん?一応戻ろうかなって思ってるよ」
「そうでっすか。実は、 冒険者さんのリテイナーさんからご伝言を預かっていたのでっす」
そう言いながら、タタルさんは一通の手紙を取り出した。
几帳面な字で“Lamamaへ”と書かれたそれを受け取り、 目を通す。


“やほーLamama!
 まーーーた黙っていなくなるから探すの超大変だったんだけど!
 激おこだよ。まじだよ。
 お詫びとして、ちゃんと元気な顔を見せにくること!
 全部終わってからで大丈夫だから。
 あと、 そのときついでにちょっと悩みがあるので相談にのってほしいんだ〜
 それじゃ、くれぐれも無理はしないように!
 元気に帰ってくるの、待ってるからね。    Nalan”


冒険者さんに時間が出来て、 暇そうなときに渡してもらえませんか?って言われたんでっすけど、 私の知ってる冒険者さんはいつも忙しそうでっすので・・・」
おずおずとそう言うタタルさんに微笑む。
「ありがとう、タタルさん。 第一世界に帰る前に家に寄ってみることにする」
僕の言葉にタタルさんがぱああ、と顔を明るくした。
「はいでっす!きっとリテイナーさんも喜ぶでっす! とても心配そうにしていらっしゃいまっしたから」
再度タタルさんいお礼を言って、石の家をあとにする。
家行きのテレポ詠唱をしかけて、ふと思い立つ。
いきなり帰ってもいないかもしれないし、せっかく帰るなら・・・ と久々にリンクパールを取り出した。
1度目のコールが鳴りきらないうちにNalanが応答した。
「Lamama?!帰ってきたの?!」
「ただいま、Nalan。ちょこっとだけなんだけど、タタルさんんから手紙を受け取ったから。 今から家に帰ろうと思うんだけど、いるかな?」
「時間あるときで大丈夫だよ?まだ忙しいんじゃないの・・・?」
いつものぐいぐいくるNalanじゃないとこを見ると、 相当心配してくれていたのだと伝わってくる。
「Nalanと話す時間くらい、 忙しくたっていつでも用意できるよ」
「無理はしてない・・・?」
「してないしてない。ところでNalan、 ビスマルクのロランベリーチーズケーキ、好きだったよね?」
「え・・・!もしかして・・・!」
「買って帰るから、美味しいお茶が飲みたいな」
「わかった!ちょう待ってる!!!!」
さっきのしおらしさはどこ行ったのか、 いつもの元気を取り戻したNalanに思わず微笑みながら、 テレポ先をリムサ・ロミンサに切り替えた。


「よお!Lamama!久しぶりじゃないか!」
ビスマルクに顔を出したLamamaを、 料理長のリングサスが目ざとく見つけて声をかけてきた。
「なんだ、今日は何を頼まれてきたんだ?」
「いやいや、今日は珍しくお客さんなんですよ。 うちのリテイナー、 ビスマルクのロランベリーチーズケーキが大好きで」
「お、それは嬉しいねえ。お前からの注文なら、 俺が腕によりをかけて作ってやるよ!ちょっと待ってな!」
「ありがとうございます!」
リングサスが腕によりをかけて作ってくれたロランベリーチーズケ ーキHQはそれはそれはもう宝石のように美しいケーキだった。
「わあ、食べるのがもったいないくらい」
「何言ってるんだ!さあ、リテイナーんとこに持ってってやりな! 」
「ありがとうございました!また来ますね!」
「おうよ!」


ふわっと体が地に着く感覚とともに、乾いた空気が身を包んだ。
ザナラーン特有のカッと光る太陽が眩しい。

澄み切った青空と、眼前に広がる雲海。
雲の上にいるんじゃないかと錯覚するようなこの景色が、 ここに家を買った決め手だった。
久々に我が家の門をくぐり、庭の様子をのぞく。
Nalanがしっかり手入れをしてくれているおかげか、 雑草も枯れ草もなく、望遠鏡もランプもぴかぴかに磨かれている。
「とても助かる・・・」
ひとり言をいいながら、扉を開く。
「ただいま~」
「おかえりー!」
おかえりだっぺよ~!と口々にみんなが迎えてくれる。
「それで・・・」
わくわくって言葉はこの子達のためにあるんだろうなってくらい、 期待に瞳を輝かせたNalanとナマズオ達がLamamaを見つめる。
「買って来ましたよ・・・、ビスマルクのロランベリーチーズケーキ!しかもリングサス料理長直々に作っていただきましたよ!!!」
「Lamamaやる~~!!最高~~!!」
ロランベリーチーズケーキ を囲んでわっしょいわっしょいと踊りだすナマズオたちとNalan。
いつの間にか、僕が思うよりもこの子達は仲良くなっているみたいだ。 

「もちろん、おいしいお茶もあるんだよね?」
「当然だっぺ!お茶なら任せてほしいっぺ!!!!」
僕の質問に、くい気味で仕入担当のナマズオが反応する。
チーズケーキに合うお茶はこれしかないっぺ!!! っと机の上を指し示す。
ぽかぽかと湯気をあげる・・・これは緑茶・・・?
「チーズケーキの濃厚な味わいを引きたてる、 緑茶の控えめな渋み!そして甘み! しかもこの緑茶はただの緑茶じゃなくてオイラ自家製ブレンドの・ ・・」
「はいはいはい、冷めちゃうから、とりあえずお茶にしようね~」
とうとうと語り始めるナマズオをNalanがなだめる。
うちのナマズオこんなに喋る子だったっけ・・・?
久々に家に来ると色んなものが変わっているなあ、と留守の長さを実感しながら、みんなでケーキを頬張った。


「あ~~美味しかった~~」
満足げなNalanにつられて笑顔になる。
実際、リングサスお手製のロランベリーチーズケーキは夢のように美味しかった。
「さて、それで悩みってなんだろう?」
ナマズオたちにお皿の片づけをお願いしながら、Nalanに話を振る。
「あー実はね。リテイナーとして、私、 失格かもしれない」
急に表情を暗くするNalanに首をかしげる
「・・・?どういうこと?」
「私、もしかしたら夢遊病かもしれなくて」
「むゆ・・・?」
いまいち要領を得ない僕に、Nalanは勢いよく話し始めた。
「ちょっと前から・・・ えっと具体的にはLamamaがどっかいっちゃってから少し経ったくらい?から、身に覚えのないマーケット出品とかギルの出入があって、 全く記憶にないのに、記録にはしっかり残ってて・・・。 いや確かにどのやり取りも夢で見たような気がする~、みたいな記憶はあるんだけど・・・もはやそれがやばくない? ギルの出入とか、千円とか1万円単位ならまだ・・・ いやだめだけど、まだなんとか言い訳?できるけど、 100万単位なんだよ?!?! 夢に覚えがあっても身に覚えがないのおかしくない?!?!?!」
「そ・・・れは・・・」
確実に第一世界で僕がフェオちゃんとやり取りした分だ・・・!
でもだからといってなんと説明すればいいんだ・・・?
僕が悶々と悩んでいるのを別の意味に捉えたNalanがわあっと泣き出す。
「だよね・・・。もう私リテイナーも出来ない体に・・・。しかも原因がなんなのかさっぱりこれっぽっちも見当つかなくて・・・」
「いや、原因は、わかる・・・」
僕の言葉にバッとNalanが顔をあげる。
「というかそれは・・・なんとういか、うーーーんとね」
言葉を探す僕をすがるような目でNalanが見つめる。
「あの今ね、今冒険しているところが、夢の世界みたいな感じで・ ・・ね?それで、 その世界で僕とNalanを繋いでくれている妖精さんがいるんだけど、その子を通して行ったやり取りが・・・身に覚えにないマケ出品やギルの出入かな・・・って思う・・・」
これで伝わるだろうか・・・ と不安になりながらNalanを見つめる。
僕の言葉をゆっくりと繰り返しながらNalanは小首をかしげた 。
「つまり・・・、私はおかしくなったわけじゃない・・・?」
「うん。Nalanはおかしくなってないよ」
「じゃあ私、Lamamaのリテイナー続けられる・・・?」
「うん。むしろこっちからお願いしたいくらいだよ」
うんうん、と言葉を反芻して、 Nalanは机にがばっと突っ伏した。
「あああ、よかった~~~」
「怖い思いさせちゃってごめんね」
本当にごめん、と心から謝る。
第一世界に戻ったらフェオちゃんに相談してみよう。
「もうほんとにびっくりしたんだよ~~~。でもよかった~~」
ごめんの気持ちを精一杯こめて、突っ伏したままのNalanの頭を撫でる。
「あ」
なにかを思い出したように勢いよく起き上がったNalanが僕をじっと見つめる。
「Lamama、まだその妖精さんに会うことある?」
「多分これからもたくさん会うと思う」
「分かった。その妖精さんにさ、お礼が言いたいから次会いにきてくれるときは記憶は残してくれる ように頼める?真夜中に起こしてもらっても全然大丈夫だから・・ ・!」
「うん。相談してみるよ。それにしてもそんなことになってるとは思わなくって・・・。気が回らなくてごめんね」
「文句言いたいとこだけど、ロランベリーチーズケーキに免じて許してあげよう」
すっかりいつもの調子に戻ったNalanに本当にごめんね、ともう一度謝る。
「それと、留守中の家の手入れ、本当にありがとうね」
「あ、それは私だけじゃなくて」
「オイラたちも手伝ってるっぺ!」
お皿を洗いながらナマズオたちがオイラも!オイラも! と泡まみれになった手を掲げる。
「そうだったの・・・?!みんなありがとう」
「みんなでこの家でいつでも待ってるから。 帰りたくなったらいつでも帰ってきてね、Lamama」
Nalanがふわっと微笑む。
その後ろでだっぺだっぺ!と泡が舞う。
舞い上がる泡に気がついたNalanが
ナマズオちゃんたちら飛ばした泡、ちゃんと拭いておいてね?」
と釘を刺す。


そんな光景に思わず吹き出しながら、僕は鞄に手をかける。
「それじゃあ」
そう言いかけると、お見送りだっぺ!とナマズオたちがわらわらと集まってきてくれた。
扉の前でみんなに向き直って、軽く右手をあげる。


「いってきます」